オレは三日後に死ぬー。

ひたすら、日が明けるまで鏡の前で泣いた。 半端じゃない量の涙を流した気がする。どんだけの量かわかりっこねぇが、テメエの顔を見るたんびに泣けてくる。気味悪いサマヨルの薄ら笑いが、鏡の向こうでずっとこっちを見てる。 笑ってるけど、号泣だ。 笑えないのに、笑っている。 泣けるぜ。

こいつは、俺になっても話し相手が必要らしい。 隠居した人生は退屈なんだろうな。

サマヨル「バーキンさん、お元気そうですね」
バーキン「どこがだ?」
サマヨル「いい笑顔になりました」
バーキン「クリソツだ。オマエの、薄気味悪い顔とな」
サマヨル「物真似上手」
バーキン 「しばくぞ」
サマヨル「特大ホームランですか。楽しみですね」
バーキン「不思議だ」
サマヨル「と申しますと」
バーキン「オマエと会うと、死の恐怖から解放されてるみてぇだ」
サマヨル 「お役に立てて、光栄です」
バーキン「けどよ、涙が溢触れてくんだ。泣いても泣いても乾かない…」
サマヨル「何故、泣くですか?」
バーキン「悲しいわけじゃない。幸いわけでもねえ。苦しいとも違う。たぶんな、覚悟したからだ」
サマヨル「その気持ち、とても理解できますよ」
バーキン「慰めはやめろ」
サマヨル「我々は同体です。アナタの涙は、私の涙 です。心の揺らぎも、私の一部。アナタが覚悟した真意は、私の一部です」
バーキン「健気だね。だんだんオマエの存在を認めることになるとは、自分でも驚きだ。どうして俺に憑く?」
サマヨル「バーキンさん、アナタだけではありません。たくさんの隣人が私を待っています。同じ境遇の者たちです」
バーキン「その連中は、絶対にオマエに会うのか?俺と回じ体験をするのか?」
サマヨル「隣人には私の姿が見えます。何故分かりません。しかし、私の役目は単純です。隣人の皆さんの苦痛を和らげる、ほんの矛先です」
ベーキン「予先だと?何様気取りだ?」
サマヨル「笑う顔、は、信じ がたい痛みにより腫瘍が生成されます。痛みと戦うには、笑いが必要です。ですから、笑いの矛先が私となるのです」
バーキン「全然分かんねぇ」
サマヨル「いずれ分かりますよ。屈辱的な 肉体の痛みに支配される恐怖が聞もなく訪れます。そのときこそ、私の本当の出番が同ってくるのです」
バーキン「冗談じゃねえ」
サマヨル「この顔で冗談じゃ、第えません」
バーキン 「笑ってるじゃねーか」
サマヨル「ええ、生まれつきです」
バーキン「くだらねえ」
サマヨル「バーキンさんは、愉快な人です」
バーキン「案っていいか?」
サマヨル「お好きなだけ、どうぞ」
バーキン「俺は、この町が嫌いだ。もううんざりだ」
サマヨル「はい」
バーキン「ここの連中は、湿ってやがる。心にカビが生えているんだ。本当だ。俺の骸を開いたら、うっすらコケが生えてるんだぞ」
サマヨル「はい」
バーキン「表情が死ぬんだ。ここの生話には。 同いじゃねー。豊かになれない理由だけたゃねまんいある。組織社会の問題だけじゃねえんだよ。 真ん中から外れちまったら、もう戻れねえ枠組みがあるんだ」
サマヨル「はい」
バーキン「だからよ、この町にしがみついて、あちこちの組織にしがみついて、どこかで自分の価値を高額で拾ってくれるありもしねぇ”運”を、心死にいて探してんだ。どいつもこいつもよ。俺様、同類なんだ」
サマヨル「はい」
バーキン「わかっちゃいるんだよ。どの連中だって、限界だってことは。それでも、どこかに潜りこむ隙があるか虎視眈々と狙ってんだ」
サマヨル「はい」
バーキン「阿保な讃言だがな..。いつか俺様も、暗黒街や東海岸からどでかい仕事が回ってくるってな、どっかで信じてんだ。そりゃ、今でもだ。ずっとその日を待っているんだ。俺にとっての楽園は、目の届く近い場所にあんだけどよ、でも触れない世界ってことだ」
サマヨル「はい」
バーキン「それがわかってっから、この町から出れないんだ。わかってんだよ…」
サマヨル「はい」
バーキン「なかなか聞き上手だな..」
サマヨル「コツがあります」
バーキン「どんな?」
サマヨル「眼球を動かさないことです」
バーキン「??」
サマヨル「情緒不安定な感情には、安定した 目を見せるに限ります。揺るぎないモノを見ると、人は安心します」
パーキン「何の受け売りだ」
サマヨル「経験則ですよ。死にそうな顔の人を、何万人も見てきた実証です 」

パーキン「豊富な経験か。そりゃ大したもんだ」
サマヨル「私で答えられることでしたら、何でも聞いてください」
バーキン「じゃあ、ずっと気になってたことがある。何でカーティス・ブラックバーンなんだ?奴から狙われる理由はなんなんだ?」
サマヨル「…」
バーキン「…ん? オマエに関係があるのか、ひょっとして」
サマヨル「…」
バーキン「おい、どうした?」
サマヨル「……ハハハ」
バーキン「え?」
サマヨル「なんでしょうか…」
バーキン「聞いてんのか?」
サマヨル「はい」
バーキン「カーティスの目的を教えろ。俺様を殺るべき理由だ。こんな安打製造機背程度に、あのカーティスが登場する由縁だ」
サマヨル「カーティス・ブラックバーン…。どなたでしょうか?」
バーキン「俺様はカーティス・プラックバーンから命を狙われている。その理由が見えねぇんだ。 そんでおまけに、突然オマエが目の前に現れた。凶暴な悪魔にまで付き纏われる始末だ。すべて繋がってる。違うか? 」
サマヨル「馬鹿馬鹿しい偶然です。災いを呼び込む体質なのですよ、バーキンさん自身が」
バーキン「だったら聞かせろ。俺は、何者なんだ?」
サマヨル「禅問答は得意ではありません」
バーキン「じゃあ、 オマエは何者だ?」
サマヨル「ハハハ。何だと思います?」
バーキン「この質問は、禁句らしいな。急に、思考が変えられている」

サマヨル「アナタは、ププ。人生の句読点を探している 」
バーキン「まただ…。オマエには制御がかかっている。違うか?」
サマヨル「探し物を、教えて差し上げましょう」
バーキン「どこだ? こいつに仕込まれた回路は…」
サマヨル「打席に立つ順番が回ってきました。カーティス・プラックバーンの球を打ち返せますか?」
バーキン「なるほど龍一…。大体、理解できたわ。ここか?」
サマヨル「アハハハハ。止めてください。プププ。超ウケますよ。骨折するじゃないですかハハハハハ」
バーキン「オマエの左の膝、血色悪いからな。こういうのは刺激療法ってんだよ。ちったあ、我慢しろや」
サマヨル「ブハッ! やめてやめて、爆笑モンですよ。アハハハハハ。メチャメチャ痛いじゃないすか。ププププ。超痛い。超痛い。超痛い。プハハハハハハハ」

とうとう壊れちまった。 真っ赤に腫上がった膝小僧に向けて、何度もスイングした。 当りは、無論ジャストミートだ。 会心の一撃を連続で加える。サマヨルは、超大爆笑だ。 死ぬんじゃないかって位に、笑い転げてやがる。

だが、奴の笑顔は狂気に満ちてくる。 だんだんと眼が笑ってない。 結構、酒落になんない怖さだ。 いい迫力の顔だわ。 ソファに深々と腰を下ろして、俺様の顔を真っ直ぐ見据えて、射抜くかのような眼力で笑う。

サマヨル「では、本題です」
バーキン「なんだ?」
サマヨル「私の正体を教えます。私は”笑う顔の原型です。組み換えられた人間のような”物”です。あらゆる情報は抜き取られました。ですから、 笑っていられるのです」
バーキン「どういう意味だ…」
サマヨル「間もなく、バーキンさんのすべてが抜き取られます」
バーキン「やなこった」
サマヨル「体の節々が痛くはありませんか?」
バーキン「全然 、平気。超平気」
サマヨル「ほら」
バーキン「うげっ!」
首に激痛が走った。 立っていられない痛みに負けて、意識が、飛ん、だ。

7月5日 4:44am
シゲキ・バーキンのアパートメントにて。

今、目の前の光景を俺は信じたくはない。
ダン・スミスはマリオ・カスティグリオニの生首を土産に、カーティス・ブラックバーンの座るV I P専用の特等席の前に仁王立ちしている。この緩迫感は、言葉じゃ説明できねぇ。いわゆるが犯罪力がスパークして、ちょっと頭痛がしてくる。この2人から、強烈な電磁波が放出されているに違いねえ。ダンは、悲惨な頭をテーブルの上に置かれたフルーツ盛りの上に置いた。 ちょっとした、カスティリオーニ・サンデーの出来上がりだ。 表情一つ変えないカーティスに、ダンは苛立っている。俺は…。俺か?俺は…、バットを持つ手がぐっちょり濡れていた。

カーティス「小僧、用件を聞かせろ。女を怖がらせちゃいけない」
ダン「どうだ?土産には十分な、首だろ。俺を幹部で使え。悪くない話だろ」
カーティス「加速している な、何もかも。その度量、持て余しているなら、俺が秩序を与えてやるぞ」
ダン「制御する気か?」
カーティス「不満か」
ダン「やれるんなら、力でねじ伏せろ」
カーティス「腕自慢の小僧を、支配することなど容易いが…自尊心が、壊れるぞ」
ダン「壊れる軟な器だと抜かすのか!!」
カーティス「見えるな」
ダン「見えなくさせてやるぜ」

今世紀最大の一触即発だ。

7月5日 8:06pm
ナイトクラブ「ローリンサンダー」にて。

Scanned and transliterated from the 2018 SUDA51 OFFICIAL COMPLETE BOOK.

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